○世界で品薄が生じるニトリル手袋~国内メーカーの動きは
新型コロナウイルス感染症の蔓延によって、世界中で品質の高いニトリル手袋の需要が高まり、一気に品薄状態となってしまいました。
また、そのような中で、生産国の中で多くのシェアを獲得しているマレーシアの企業において、2度のクラスターが発生し、さらに供給が遅れてしまうことになりました。
現在においても、ワクチン接種のために数多くのニトリル手袋が必要であり、家庭用や一般のために供給できないような状況となっています。
そのような中で政府においても、ニトリル手袋の品薄状態を懸念しており、国内メーカーに対して増産体制などを要請しています。
現在、国内メーカーの動きはどうなっているのか、その状況をお伝えしていきましょう。
・香川県坂出市に国内初のニトリル手袋の工場が
国内シェアのトップ企業である手袋メーカーのショーワグローブ(本社・姫路、近藤修司社長)は、香川県坂出市に医療用ニトリル手袋の製造工場の建設を発表しました。
すでに工場用地については取得済みとなっていて、2021年5月頃に着工、2023年春頃の操業開始を予定しています。
今までニトリルゴム製の使い切り手袋については国内製造されておらず、今回の製造拠点の誕生は手袋業界では初めてのこととなっています。
工場用地については香川県坂出市番の州(ばんのす)にある香川県有地となっています。
すでに香川県が取得しており、2020年11月議会での議決を経たのちに着工する予定です。
この取り組みは、世界中で見られているニトリル手袋の品薄状態について懸念した政府による増産要請を、ショーワグローブが対応した形です。
国内で生産されるニトリル手袋は医療用手袋として活用されることになっており、今後のPCR検査にも使用される予定です。
ニトリル手袋の製造には、生産ラインのための広大な土地、製造のために必要な多量の水を供給できる体制が必要となります。
そこで香川県は政府の要請に対して、坂出市の番の州臨海工業団地での誘致を提案しました。
番の州臨海工業団地は日本有数の工業地帯であり、工業用水や電力、ガスのインフラがしっかりと整っています。
また、近くには高速道路のインターチェンジも近いことから、素材の搬入やニトリル手袋の出荷のアクセスにおいて利便性が高いと言えます。
ショーワグローブは香川県に近い兵庫県に本社を構えており、現在はマレーシアやベトナムなどに生産拠点をおいて提供してきました。
しかし、マレーシアなどからのニトリル手袋の供給が滞っている状態を受けて、国内初で最大となるニトリル手袋の生産拠点の整備を決めたのでした。
ショーワグローブの工場の敷地は約9.7ヘクタールと広大であり、土地代含めて約90億円かけて着工する予定で、2023年春頃の操業開始時には、従業員300人体制で生産ラインが動き出すことになります。
香川県では、ショーワグローブを誘致することによって、経済効果にも期待しています。
・住友ゴム工業(株)がマレーシア工場の生産能力の増強に着手
住友ゴム工業(本社・兵庫県神戸市、山本悟社長)においても、ニトリル手袋の製造に対する政府からの要請に対応するために、生産能力の増強に取り組まれることになりました。
その対応に先駆けて、2020年4月には医療支援として、ニトリル手袋を日本政府に対して97,500双を日本政府に寄付しています。
住友ゴム工業においては、生産拠点をマレーシアにおいており、こちらの工場の生産能力をさらに200万双/月に増強することを決定しています。
生産ラインを増やし設備投資を行うことになりますが、政府の「海外サプライチェーン多元化等支援事業補助金」を活用することにより構築し、安定供給の整備に努めることになります。
増産は本年5月より開始する予定となっており、主に医療用として医療機関などに供給することになっており、その他にも食品メーカーなどに供給される予定です。
住友ゴム工業のマレーシア工場は1981年に操業しており、マレーシアのケダ州スンガイペタニ市にてニトリル手袋の製造をはじめ、家庭用や作業用のゴム手袋、タイやパンク修理剤などの製造を行っています。
今回増強が決定しているこちらのマレーシア工場とタイなどにある強力工場で生産力増強体制をつくり上げ、日本国内だけではなく海外メーカーに対しても販売していく予定です。
・ニトリル手袋の対応が遅い国内メーカー
ニトリル手袋に対する国内メーカーの動きとして、明確になっているものは上記でご紹介した通りとなっています。
ただ、昨年度から品薄状態となっていることが明確であったにもかかわらず、政府や国内メーカーの動きが遅いように感じられる方も多いのではないでしょうか。
国内での工場整備についてはショーワグローブのみとなっており、しかも操業開始は2023年春頃となっており、まだ2年後の話となっています。
住友ゴムのマレーシア工場での対応は本年5月からとなっていますが、あくまでマレーシアでの対応であって、国内によるものではありません。
もちろん国内にはその他のメーカーが存在しますが、いずれも増産対応などを取っていないことが分かっています。
・なぜ国内メーカーの動きが遅いのか
これには、いくつかの理由があると考えられています。
- 医療用ニトリル手袋の生産は厚生労働省から許可を得なければならない
- ニトリル手袋自体にJIS規格が適用となる
- マスクのようにすぐに生産することができない
- 生産ラインには多量の水が必要となる
- 1ラインが100mを越すようなこともあり広大な土地が必要
- 国内では採算が取れない可能性がある
国内においてすぐにニトリル手袋の生産ができない理由として、上記の通りまとめてみました。
わが国において、医療用のニトリル手袋を生産する場合、厚生労働省から医療機器の製造販売業の許可を得る必要があります。
同時にJIS規格に沿ったものにしておく必要があり、これらが大きなハードルになると考えられています。
また、マスクのように簡単に製造できないという問題もあります。
使い捨てマスクのような場合には、別の設備を転用することによって製造することが可能となりますが、ニトリル手袋の生産は手形にニトリルゴムを塗り込んでいくという手法になるために設備の転用は難しいと考えられています。
ゴム手袋を生産する国内メーカーはほかにもありますが、手袋のある厚さなどクリアしなければならない問題が多数あるようです。
さらに、生産ラインには多量の水が必要となっており、100mを超える生産ラインを作るために広大な土地も必要です。
それらの条件を満たす場所が、なかなか国内に見つからないといった問題もあります。
国内で見つかったとしても、コストパフォーマンスにマッチするかどうかがさらに大きな問題となります。
海外で生産したニトリル手袋と比べると、生産コストがまったく異なるからです。
一時的に需要があったとしても、今後、その需要が続くかどうかなどと言った保障はまったくありません。
そこで、海外拠点を持つ企業に対しても、製造能力の増強ができないか、政府は要請を繰り返してきました。
ただ、現時点においてもどのぐらい生産能力が増強できるのかについて、まとまっていない状況なのです。
○世界でのニトリル手袋の供給の動きは
ニトリル手袋の世界シェアにおいて一位に輝いているマレーシアの「トップグローブ社」は、新型コロナウイルス感染症による需要拡大のために生産能力の拡大を発表しています。
また、同じマレーシアの企業である「ATシステマティゼーション(ATS)」においても、産業用手袋製造業者パールグローブを買収して生産能力拡大に取り組んでいます。
国別シェアの第3位である中国では、手袋製造の大手「英科医療科技」もニトリル手袋の増産体制を発表し着手しています。
英科医療科技は現在ベトナムに生産拠点を有しており、米国や日本、ドイツなどに向けてニトリル手袋を供給していることで知られています。
・トップグローブ社の供給は今後どうなる?
世界シェア26%を獲得している「トップグローブ社」ですが、2020年8月には生産能力を倍増させる計画を発表しています。
ただその後、10月と12月の2度にわたって大規模なクラスターを発生させてしまったことによって、さらに世界中の品薄状態を悪化させてしまいました。
工場で働く従業員約5000人が罹患したと伝えられており、これは地域にいる従業員の約58%であることが分かっています。
マレーシア国内において41ある工場は約1か月間、操業停止となってしまったのです。
2021年3月現在、マレーシア国内においても少しずつ感染者数は減っていますが、トップグローブ社の対応は国内外からも注目されています。
全従業員の約58%が感染したという割合は、マレーシア国内でもかなり高い感染割合となっていることから、居住環境などの不備が指摘されることになったのです。
さらに、国外からの出稼ぎ労働者への処遇問題なども発覚し、これらの問題を解決することも不可避であるとされています。
そのため、すぐに増産体制が整うということは言い難い状況であるのかもしれません。
・中国製ニトリル手袋の台頭
世界的にニトリル手袋の供給が追いついていない状況の中で、中国製ニトリル手袋は安定して供給されていることによって注目されています。
すでに数千万枚の販売実績を有しており、納期・価格についても安定しています。
上記でご紹介したトップグローブ社では、現在納品まで620日ほど有するといった報道もなされていることから、中国製ニトリル手袋が注目されるのは当然のことでしょう。
品質についても高品質であることが分かっています。
引き裂きや突き刺し、摩耗などへの強度はとても高く、耐久性や耐油性には問題ありません。品質については、販売元のジュノー合同会社から下記のように公表されています。
老化前強度:14Mpa
老化前伸び率:平均460%
老化後強度:13Mpa
老化後伸び率:平均410%
厚生労働省で登録されている検査機関である「一般社団法人日本食品検査」において検査されたもので、輸入食品等試験成績証明書も取得済みとなっています。
○まとめ
世界で品薄が生じるニトリル手袋ですが、そのような状況においても国内メーカーの動きはやや鈍いと言わざるを得ない状況であることが分かります。
国内で対応するのはショーワグローブ1社のみで、しかも生産がはじまるのが2023年春ごろの予定となっています。
経済産業省は、ほかの国内企業とも交渉を続けているようですが、まとまりを見せていない状況にあります。
マレーシアのトップ企業であるトップグローブ社においても問題が多発し、供給が難航している様子が伺えます。
そのような中で安定した供給を見せているジュノー合同会社が販売する中国製ニトリル手袋はさらに注目度が高まることは間違いありません。
品質も高く、供給実績も数千万枚ということから、今後も需要が高まることでしょう。